オカメサブレはクルミとバターのサクサクサブレ。赤いホッペはラズベリー。レシピのうち原材料とその比率は開業当時より変えていません。ですがおいしくなった、とよく言われますし私もそう思います。変えたのは何なのかと言うと機材と工程です。これに関してはほんとうに実験を繰り返したといえます。工程のうちもっともたいせつなことは仕込みだと思っています。ここがうまくいっていないと成形、ベイク、焼き上がり、その後のすべてがうまくいかなくなります。はじめの1年くらいは生地の仕込みを全て手で行っていました。一度に仕込む量が2kgくらいでしたから大変ではありましたが50センチのミキシングボウルで粉をいれるところまでしてました。いまでは一度に30kg仕込むこともあります。10クオートの業務用ミキサーを購入しました。単相100Vで使用できる最大です。一回まわすごとに室温に戻したポンドバターを3個使います。きび砂糖、卵黄、クルミの順に投入していきます。機械だからといってドバっと全部入れて良いわけではありません。わたしの感覚ではバターときび砂糖の段階までは高速でそうとう回して大丈夫です。むしろしっかりやるべきところです。卵を入れるときは慎重にしています。したいのは「乳化」だからです。乳化というのは水と油みたいに本来まざらないはずのものを均一に混ざりあった状態にすることです。起きていることは化学的なことで分子がとか分子間力が、とか聞きます。ちょっとむずかしいんですが、うまくいってるときはきれいなので分かります。オカメサブレには卵黄しか使いませんからレシチンのはたらきで全卵のときのように分離などしたことはありません。クルミはオーブンで15分ローストしたものをクイジナートでペースト状にして混ぜています。それをふるいにかけた小麦粉と合わせます。3キロ近い小麦粉と合わせますのでなかなか重労働です。こねすぎるとグルテンが出てしまって良くないですから最低限の回数で混ぜていきます。うまく行った生地というのはまとまりがあってべたついたりすることがありません。それを2〜5回繰り返します。オカメサブレのレシピはいつでも公開できると思っています。私のお菓子を作る才能は普通ですが、オカメサブレを私よりじょうずに作れる人はいないからです。何万枚も焼いたからそう思います。オーブンの温度と焼き時間を同じにしたからと言って同じように焼き上がるわけではありまません。理由はかんたんで、その日の気温とか、生地の温度とか、卵だっていつも同じではない。つまりは毎日が違う日だからです。オカメサブレを何万枚も焼いたことで分かった、いつも昨日とは違うということは、なんだかうれしい大発見でした。
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